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東京地方裁判所 昭和36年(ワ)653号 判決

原告 大嶺勇

被告 三益商事株式会社 外一名

主文

被告等は原告に対して合同して金三〇万円及びこれに対する昭和三四年一二月一日から支払済みまで年六分の割合による金銭を支払うこと。

訴訟費用は被告等の負担とする。

この判決は仮りに執行できる。

事実

原告の請求の趣旨及び原因は別紙訴状記載のとおりである。なお、原告は、被告岡部は拒絶証書の作成義務を免除して裏書したものであると述べ、被告会社の答弁に対して別紙準備書面記載のとおり述べた。

被告会社は、当裁判所が陳述したものと看做した別紙答弁書を提出しただけで、本件口頭弁論期日に出頭しない。

被告岡部は、本件口頭弁論期日に出頭せず、且つ答弁書その他の準備書面をも提出しない。

原告は、立証として、甲第一号証の一、二、第二号証を提出し、原告本人の尋問を求め、甲第一号証の一の裏書日付欄に「昭和三四年九月一〇日」とあるのは昭和三四年一〇月一〇日の誤記であると述べた。

理由

(被告会社に対する請求について)

被告は、本件手形は訴外窪田佐一郎に窃取されたものであり、仮りに窃取されたものでないとしても詐取されたものであるから支払義務がないというが、原告が右の点につき悪意又は重大な過失があつたことは被告の主張しないところであるから、たとえ本件手形が窃取又は詐取に係る手形であるとしても、被告の右の抗弁はそれ自体理由がない。のみならず、原告本人の陳述とこれによつてその成立を認めることのできる甲第一号証の一、二と甲第二号証によると、本件手形は被告会社が振出した瑕疵のない手形で、原告は受取人たる相被告の岡部から割引を依頼され、昭和三四年一〇月一〇日善意でこれが裏書譲渡をうけたものであつて現に本件手形の所持人であることが認められる。そして、右手形が満期に呈示されたが、その支払のなかつたことは当事者間に争がないのであるから、被告は振出人として原告に対して右手形金三〇万円及び昭和三四年一二月一日から支払済みまで年六分の割合による法定利息(「損害金」とあるも法定利息の趣旨と認める)を支払うべき義務がある。

なお、本件手形には振出日が昭和三四年九月三〇日と記載され裏書日が昭和三四年九月一〇日と記載されているが、原告本人の陳述によれば、右の裏書日の記載は昭和三四年一〇月一〇日の誤記であることが認められる。裏書日の記載は手形の必要的記載事項ではないのであるから、振出日よりも前の裏書日が記載されていても、裏書の事実があつた以上、その裏書を無効とすべき理由はない。したがつて、原告は裏書の連続せる手形所持人としてその保護をうける資格を有する者である。念のため附記しておく。

(被告岡部に対する請求について)

被告は原告がその請求原因として主張する事実を明に争わないので、これを自白したものと見做すべく、そして、右の事実によれば原告の請求はその理由がある。

(むすび)

よつて、原告の請求を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九三条、第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石井良三)

訴状

請求原因

一、被告三益商事株式会社は被告岡部寛に対し昭和三十四年九月三十日額面金三拾万円也、支払期日同年十一月三十日、振出地並に支払地岐阜市、支払場所株式会社十六銀行竹屋町支店の約束手形を振出し同手形は岡部寛より原告に昭和三四年九月十日裏書譲渡せられ原告は之が所持人である。

二、右手形は支払期日に提示し支払を求めたが資金不足の理由にて拒絶せられた。

其後全然解決しないので本訴に及んだ。

答弁書

答弁の趣旨

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

請求原因に対する答弁

一、請求原因第一項に対し

被告三益商事株式会社が原告主張の約束手形を振出した事実は否認する。その他の事実は不知

二、右第二項に対し

同主張事実はこれを争わない。

三、抗弁

本件手形は訴外窪田佐一郎(川崎市池田町二五)に窃取されたものであり、同被告の意思に基いて振出し交付したものではない。従つて、支払義務がないものである。

仮りに、然らずしても、右訴外人に詐取され、同被告より直に内容証明郵便をもつて、流通せしめざること、流通せしめても責任を負担しない旨通告した。

準備書面

一、請求原因事実の訂正

(一) 請求原因第一項の事実中「昭和三四年九月十日裏書譲渡」とあるを、「昭和三四年一〇月一〇日裏書」と訂正する。

本件手形上、被告岡部から原告に対して裏書された日付として、昭和三四年九月一〇日と記載されているが、右日付は裏書人の誤記によるものであつて、原告が同被告から現実に裏書を受けたのは同年一〇月一〇日である。

(二) 旧商法四五七条においては、裏書日付が手形要件とされたのに反し、現行法は裏書日付を手形要件とせず、日付の記載なき裏書に対する推定規定(手形法二〇条二項)をおいて所持人の利益を計り、手形の円滑な流通を企図した趣旨に徴するときは、たとえ、本件手形のように振出日以前の日付が記載されたとしても、これを無効とする趣旨ではないと解すべく、いかなる時期に裏書されたかは手形上に記載された日付のみを標準とすべきではなく、真実裏書がされた日によるものと解するのが相当である。

二、被告の主張に対して

(一) 被告会社の意思に基いて交付したものでないとの点は否認する。その余の事実は知らない。

(二) かりに被告会社主張のように、本件手形が窃取され被告会社の意思によらず流通におかれたとしても、被告会社代表者が本件手形に振出人として記名捺印しているのであるから、被告会社は本件手形上の義務を免れることはできず、かりに振出に交付が必要と解する立場をとるとしても、かような事情については、原告は本件手形の取得当時全く知らなかつたのであるから、このような振出当時の事情の有無によつて振出人の責任が免れるとするのは、所持人に不測の損害を与え、かつ、手形の流通を著しく阻害するもので到底手形制度の維持発展は望めないところである従つて、被告会社主張の事実は人的抗弁とみるを相当とする。そうとすれば、原告の害意取得の主張なき以上、主張自体失当というの外ない。

(三) 被告会社の仮定的主張に必ずしも明らかでないが、その通告内容の法律上の性質を取消の意思表示を善解し、さらにこれを被告会社前段主張の窪田佐一郎に対して通告したと解することができるとしても、右事実の主張のみではこれ亦主張自体失当というべきである。けだし、詐欺による取消の抗弁は、これを人的抗弁と解すべきところ、被告会社は原告の害意取得の主張がないからである。

かりに、かかる主張をも黙示的に主張するものとみても、原告が本件手形を取得した当時、原告は被告会社仮定的主張の事実が存在したことは全く知らなかつたのであるから、被告会社は本件手形上の義務を免れることはできないというべきである。

以上いずれにしても被告会社の主張は理由がないから排斥されるべきである。

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